ネットビジネスのためのレンタルサーバーにとって、最も重要なのは安定性。収益源となっている Webサイトが、表示されたりされなかったりするような状況が発生するのを防ぐためには、この安定性をチェックすることが必要です。
ただ、Webサイトを頻繁にチェックしたとしても、サイトの表示速度はわかりますが、よほど頻繁にサーバーが落ちてしまうような状況が発生しない限り、目視で安定具合をチェックするのは困難です。
また、サーバーエラーや障害以外でも、様々な要因によって Webサイトが一時的に表示されなかったり、表示に時間がかかってしまうといったことは日常的に起こりえます。エラーや障害が発生した場合には、ログや障害情報をチェックすればわかりますが、明らかな症状がない場合には、その問題に気づくことすらできません。
そこで、サーバーの状況を監視できる専用のサービスを利用して、Webサーバーの安定性と応答速度をチェックし、比較してみました。
Webサーバーのモニタリング実施概要
Webサーバーの何をチェックするのか?
Webサイトの安定性と応答速度を調査するため、昨年に続き monitis というサービスを利用しました。monitis はサーバーをモニタリングするための多くのサービスを提供していますが、ここでは Uptime Monitoring という死活監視の機能を利用して、Webサーバーの稼働状況をチェックします。
具体的には、以下のような情報をチェックします。
- Webサーバーが常時稼働しているか
- リクエストに対し、コンテンツのデータをきちんと返しているか(Webサイトが表示されているか)
- どれくらい速く応答しているか
これらの状況をチェックすることで、Webサイトが常時表示されているか、どのくらい速く応答できているか、を知ることがことができるわけです。
monitis で行うモニタリングの条件
Webサーバーのモニタリングをするにあたり、各レンタルサーバーにテスト用の WordPressサイトを作成し、そのサイトを以下の条件でモニタリングしました。
- 日本国内のサーバーから HTTP リクエストを送信
- リクエストは 1分毎に送信し、10秒で返信がなければタイムアウト
- Webサイトのコンテンツ内の特定の文字列が返ってくるかまで確認
- 約一週間の各社データを比較
(HTTP リクエスト=ブラウザが Webサーバーに、サイトのデータを送り返すように要求する命令のこと。ブラウザで Webサイトの表示をするのと同じプロセス)
昨年は単に Webサーバーへのリクエストが返されるかどうかだけをチェックしましたが、今回はもう少し厳密に Webサイトのコンテンツ内に数回含まれる特定の文字列が返送されるかまでチェックしていますので、実際にその Webサイトが表示されているかどうかのチェックにより近くなっています。
なお、モニタリング元のサーバーについては、昨年は Amazon AWS(クラウドサーバー)でしたが、今回は ANEXIA Internetdienstleistungs GmbH というオーストリアの会社のサーバーが使用されていたようです。サーバーの場所は、昨年と同じ東京の新宿です。
テスト用の WordPress の概要
測定に利用した WordPress サイトは他のベンチマークテストでも利用したもので、すべてのサーバーで統一しています。
・WordPress 4.7.3
・PHP 5.6(WebARENA のみ PHP5.6 が利用できないため PHP5.3)
・文字数:約3,000
・本文中画像:1枚
・WordPress テーマ:Twenty Seventeen
・プラグイン:デフォルトの3つ「Akismet / WP Multibyte Patch / Hello Dolly」
キャッシュ系のプラグインや高速化処理は使用していません。
Webサーバーの安定性比較
では、実際に Webサーバーの安定性の状況を比較してみましょう。
表にしてあるのは、リクエストに対して 10秒以内に最初の応答が返らなかった回数で、「応答がない」回数が少なければそれだけ安定しているということになります。要するに、この数が 0 に近ければ近いほど、安定性が高いということです。
なお、今回のモニタリングでは、15サーバー中 8サーバーが同時に応答しなかった時間帯(数分間)がありました。レンタルサーバーと monitis の双方に詳細を確認しましたが、いずれも問題が見つかりませんでした。
同じ会社、同じ場所のみで発生したような状況でもなく、別会社 / 東京・大阪と明らかに収容場所が異なる複数のサーバーで発生したため、その部分については除外しました。「除外」の項目に書かれているのがその回数で、サーバーによって 2~4回と多少幅がありますが、全く同一の数分間で発生したものです。
念のため、各サーバーで応答がなかったすべての時間帯の障害情報も付け合わせてチェックしましたが、特に該当するものはありませんでした。
WebサーバーのHTTPリクエストに対する応答状況
応答なし回数 | (除外分) | 応答なし合計 | 安定性順位 | |
heteml | 0 | 0 | 0 | 1 |
WebARENA | 0 | 0 | 0 | 1 |
エックスサーバー | 3 | -3 | 0 | 1 |
カゴヤ | 3 | -2 | 1 | 4 |
ABLENET | 1 | 0 | 1 | 4 |
CPI | 6 | -3 | 3 | 6 |
クローバー | 6 | -2 | 4 | 7 |
お名前.com | 5 | 0 | 5 | 8 |
WADAX | 7 | 0 | 7 | 9 |
mixhost | 10 | -3 | 7 | 9 |
さくらインターネット | 14 | -4 | 10 | 11 |
sixcore | 16 | -4 | 12 | 12 |
Bizメール | 16 | 0 | 16 | 13 |
ロリポップ! | 22 | 0 | 22 | 14 |
iCLUSTA+ | 28 | -2 | 26 | 15 |
まず、全体の 2/3のサーバーが応答ミスが 7回以下に抑えられていますので、全体的には安定していると言えるでしょう。
また、昨年よりも全体的に底上げされており、応答なしの回数が多かったものが減っています。前回調査では、最大 40~60回程度の応答ミスが発生していましたが、今回はその半分の 20回程度に収まっています。
中でも大きく変化が見られたのは、昨年最も多くの応答ミスが発生していた、お名前.comレンタルサーバーで、今回はたったの 5回だけに収まりました。
お名前.comレンタルサーバーでは昨年以降、特にサーバー環境の変化などについてのリリースなどはなかったのですが、以下のように「2015年と比較して障害発生率が 60%低下」と書いてあるため、何らかの施策が行われた可能性がありますね。
また、2016年にサーバー環境の刷新が行われた heteml(ヘテムル)も、前年の 10位から一気に 1位に急上昇しています。次の項目でも触れますが、応答速度も一気に向上していますので、ハッキリとサーバーの実力が上がったことを確認できました。
他にもクローバー、WADAX などが応答率が上がっていますが、いずれも特にサーバー環境には変化はないようですので、昨年はサーバーの負荷などが影響していた可能性があります。特に WADAX に関しては、集中的に応答なしの状況が発生していたので、その可能性は高いでしょう。
応答なしの発生状況詳細
応答なしが発生した時間帯を、各サーバーログと付け合わせてみたところ、以下のようなパターンがありました。
状況 | Webサイトの表示 |
応答ログなし | 表示不可 |
503エラー | 表示不可 |
応答しているが、データの一部のみ返送 | 一部表示不可 |
応答しているが、遅延 | 遅いが表示可 |
まず、ログがないものとエラーが出ているパターンは、データを全く返せていないため、Webサイトを表示できなかったことになります。
また、一部のデータしか返せていないものは、サイトの表示はできた可能性はありますが、画像が表示されないなどといった状況が発生します。サーバーのステータスコードは正常を意味する「200」を出力しているため、ログ解析ツールを見ても問題が発生していたことに気づくことはできないでしょう。
最後の遅延に関しては、表示できるまで時間はかかるものの、一応データは返せているので表示はできています。
これらが発生した原因としては、サーバーの問題、WordPress やデータベースの問題、回線の状態など様々考えられますが、明らかなエラーが発生していないものは原因を調査するのも難しいところです。
Webサーバーの応答速度比較
では、続いて Webサーバーの応答速度を比較してみます。
数値の単位は「ms(ミリ秒」で、リクエストに対する応答の最速の値と平均の応答速度の両方をあわせて比較します。
Webサーバーの応答速度
最速 | 平均応答速度 | 速度順位 | |
クローバー | 105 | 204 | 1 |
sixcore | 98 | 273 | 1 |
mixhost | 95 | 409 | 3 |
エックスサーバー | 82 | 516 | 4 |
CPI | 214 | 314 | 5 |
WADAX | 212 | 352 | 5 |
heteml | 154 | 492 | 7 |
お名前.com | 358 | 408 | 8 |
ロリポップ! | 180 | 612 | 9 |
ABLENET | 527 | 632 | 10 |
WebARENA | 606 | 802 | 11 |
カゴヤ | 826 | 943 | 12 |
さくらインターネット | 585 | 1,153 | 12 |
Bizメール | 828 | 1,057 | 14 |
iCLUSTA+ | 898 | 2,483 | 15 |
まず、最速の応答速度を見ると、昨年同様にエックスサーバーがトップです。ただ、こちらも全体的に速度は向上しており、他社との差がかなり縮まっています。
一方、平均応答速度については結構な差があります。全体的には最速のスピードが速いものは、平均応答速度も速い傾向がありますが、中にはロリポップ!などブレがやや大きめなものもあります。同じ会社の heteml も似たような傾向がありますね。
これはロリポップ!の応答状況を見ると明らかなのですが、夜間帯にレスポンスが悪くなっていることが原因です。応答がなかった時間も、夜間の一定時間に集中していました。他のベンチマークテストでも見られた傾向なので、やはりロリポップ!は人気のサーバーだけに、夜間帯のサーバー負荷が高いのではないかと思われます。
■今回のモニタリング結果
(薄っすら見える縦線が12時間毎の区切り 上下動が大きい部分が夜間帯 22:00~0:00近辺)
安定性と応答速度をトータルすると?
では、最後に安定性、応答速度で出した順位をもとに総合順位を出してみます。
Webサーバーの安定性と応答速度総合順位
安定性順位 | 応答速度順位 | 総合順位 | |
エックスサーバー | 1 | 4 | 1 |
heteml | 1 | 7 | 2 |
クローバー | 7 | 1 | 2 |
CPI | 6 | 5 | 4 |
WebARENA | 1 | 11 | 5 |
mixhost | 9 | 3 | 5 |
sixcore | 12 | 1 | 7 |
WADAX | 9 | 5 | 8 |
ABLENET | 4 | 10 | 8 |
カゴヤ | 4 | 12 | 10 |
お名前.com | 8 | 8 | 10 |
ロリポップ! | 14 | 9 | 12 |
さくらインターネット | 11 | 12 | 12 |
Bizメール | 13 | 14 | 14 |
iCLUSTA+ | 15 | 15 | 15 |
Webサーバーの安定性と応答速度をツールで比較まとめ
以上、monitis のツールを利用して、Webサーバーの安定性と応答速度を比較してみました。
一応、わかりやすく比較するために順位付けはしましたが、昨年に比べると、全体的にどのサーバーも安定性が高く保てており、応答速度も速めになっています。応答なしが1週間で20回としても、10,080回のリクエストに対しては、0.2%にしかすぎませんので、アクセスが少なければ全く問題にならない程度です。
ただ、アクセスが増えてくれば、それだけ収益機会を逃すことに繋がってしまいますので、やはりより安定したサーバーを選択するのがおススメです。そういう意味では、2年連続 1位を達成したエックスサーバーや同じく上位をキープした WebARENA がベターと言えるでしょう。
なお、安定性はレンタルサーバー選びに最も重要なポイントですが、処理能力などについてもあわせてチェックし、総合的に判断しましょう。