2017年に創業20周年を迎えたレンタルサーバーの老舗である「さくらインターネット」と、さくらに比べると歴史はやや浅いものの、国内シェア No.1 の「エックスサーバー」。ネットビジネスを行う上で、どちらのレンタルサーバーを選べばいいか悩む人も多いでしょう。
ここでは、エックスサーバー株式会社の「エックスサーバー」と、さくらインターネット株式会社の共用サーバーである「さくらのレンタルサーバ」を、サービスの概要からサーバーの実際の性能まで、各種のベンチマークツールなどを用いた独自の調査内容を交えて比較してみました。
各サーバーの主な違いをざっくりまとめると、こんなイメージです。
- 「エックスサーバー」:常に最高のサーバースペックを維持しており、使い勝手やサポートの質も高い。運営も堅実ゆえに、国内シェアも NO.1 を維持している。
- 「さくらのレンタルサーバ」:20年以上の運用実績がありながら、これまで大きなトラブルもなく、安定性が高い。スペックや実力的には、他社よりもやや見劣りする。
以上から、以下のような結論になります。
では、具体的に比較した内容の詳細を見ていきましょう。
エックスサーバーとさくらのレンタルサーバのスペック~サービスの詳細を比較
最初に、エックスサーバーとさくらのレンタルサーバの主なサービス概要の違いから見ていきます。
主なサービスの違い
以下に、両社における各プランと価格帯毎にディスク容量、マルチドメイン数(設置可能な独自ドメイン数)とデータベース数、転送量の目安を一覧にしました。
エックスサーバー | さくらのレンタルサーバ | |||||||
プラン名 | ディスク容量 | 独自ドメイン/データベース数 | 転送量 | 月額料金 | ディスク容量 | 独自ドメイン/データベース数 | 転送量 | プラン名 |
- | - | - | - | 129円(月額換算) | 10GB | 20個/なし | 40GB/日 | ライト |
- | - | - | - | 515円 | 100GB | 100個/20個 | 80GB/日 | スタンダード |
X10 | 200GB | 無制限/無制限 | 150GB/日 | 1,000円台 | 200GB | 150個/50個 | 120GB/日 | プレミアム |
X20 | 300GB | 無制限/無制限 | 180GB/日 | 2,000円台 | 300GB | 200個/100個 | 160GB/日 | ビジネス |
X30 | 400GB | 無制限/無制限 | 200GB/日 | 4,000円台 | 500GB | 200個/200個 | 200GB/日 | ビジネスプロ |
相違点に注目してみると、まずさくらのレンタルサーバには全部で 5つのプランがありますが、エックスサーバーは 3つのみです。比較しにくいため並べていますが、1,000~4,000円台のプランは、最低料金はさくらのほうが500円高いです。(例:エックスサーバー「スタンダード」約1,000円:さくら「プレミアム」約1,500円))
さくらには格安の100円台・500円台のプランがあるため、選択の幅からいうとさくらのほうが多いです。ただ、後述するようにさくらの場合、プラン変更ができないため、はじめは安いプランから始めて、後で上位プランに移行する、ということはできないので、注意が必要です。(解約して契約し直し、データの引っ越しの必要あり)
ディスク容量に関しては、おおむね同じくらいですが、利用可能な独自ドメインやデータベース数に関しては違いがみられます。
さくらも2018年に、利用可能な独自ドメイン数を一気に 5倍に増やしましたが、エックスサーバーは無制限なので、大量のサイトを運営するのならエックスサーバーのほうがベターです。また、WordPress などの CMS(コンテンツマネジメントシステム)で利用されることの多いデータベースの数も、現在はエックスサーバーがすべて無制限になったため、エックスサーバーが有利です。
最後の転送量は、以前はさくらが大きく引き離していましたが、現在はエックスサーバーが追いつき、ほぼ同等になっています。
なお、転送量が多いほど、大量のアクセスに耐えることができますが、サイトを量産する、少数サイトを安定して運営するなど、何を優先するかはサイトの運営方針などにもよりますので、総合的に判断する必要があります。
Web サイトの表示の際に、サーバーから閲覧者の PC に向けて送られるデータ量のこと。Web サイトへのアクセス数が多く、この転送量の上限をオーバーすると、アクセスが遮断され、サイトが閲覧できなくなってしまう可能性がある
サーバースペックの違いをチェック
次に、サーバー周りのスペックの違いをチェックしてみましょう。
エックスサーバー | さくらのレンタルサーバ | |
Webサーバーソフト | nginx(エンジンエックス) | FreeBSD |
記憶媒体 | オールSSD | HDD |
データベース | MariaDB | MySQL |
CPU | AMD EPYC(Rome世代) (48コア96スレッド) |
Intel Xeon(4コア) (スタンダードは10コア) |
メモリ | 512GB | 18MB~48GB |
PHP | CGIモード(FastCGI) | CGIモード/モジュールモード (モジュールモードはスタンダード以上) |
高速化機能 | Xアクセラレータ機能・HTTP/2・サーバーキャッシュ機能・ブラウザキャッシュ機能 | HTTP/2 |
アクセス増対策 | ○(Xアクセラレータ機能) | ○(リソースブースト機能) |
高速処理が可能な nginx、オールSSD環境、MySQL の後継で高性能な MariaDB、最高スペックの CPU と大容量メモリなど、サーバーのスペックに関しては、圧倒的にエックスサーバーのほうが上です。また、高速化に関する機能としては、さくらのスタンダード以上で PHPモジュールモードが利用できますが、それ以外は特にありません。
一方、サイトへのアクセス数が増えた急増したときの対策としては、さくらでは一時的に転送量や同時アクセス数のリソース制限値を緩和する「リソースブースト」機能を、エックスサーバーでは「Xアクセラレータ」機能を利用できます。さくらは手動で設定を行う必要がある+利用後は 1週間利用できなくなりますが、エックスサーバーは自動的に処理を行ってくれます。
その他の主なサービスの違い
次に、その他の仕様の中で違いがみられるものや、重要な機能やサービスと思われるものをいくつかピックアップし、比較してみました。
エックスサーバー | さくらのレンタルサーバ | |
HTTP/2 | ○ | ○ |
無料独自SSL | ○(Let’s Encrypt) | ○(Let’s Encrypt) |
WAF | ○ | ○ |
バックアップ | ○(Web&メール7日間分、データベース14日間分) | ○(Web&WPデータベース:最大8回分) |
バックアップからの復元 | △(データベースは無料) | ○(無料) |
プラン変更 | ○(上位・下位) | × |
プラン変更のタイミング | 月単位 | × |
ステージング機能 | × | ○ |
電話サポート | ○ | ○ |
アダルトサイト | × | × |
データセンター | 国内(大阪) | 国内(東京/北海道) |
お試し期間 | 10日間 | 14日間 |
キャンペーン | 独自ドメイン永久無料、初期費用無料など、ほぼ年中実施 | 特になし |
まず、新しい通信プロトコルである HTTP/2 や無料の独自SSL などはエックスサーバーが先行して対応しており、さくらは1年以上後にようやく対応しはじめました。プラン変更に関しては、エックスサーバーのみ対応しています。
2018年に入り、ようやくさくらもバックアップ機能の提供を始めました。両サーバーの違いとしては、エックスサーバーがデータベース以外の復旧は有料であること、一方さくらの場合は自動バックアップはあらかじめ自分で設定する必要があり、かつ 8回分(8日分とは限らない)のみバックアップが可能な点です。
また、さくらでは、サイトを公開する前に、実環境と同じ状況でテストサイトを作成できる、ステージング機能の提供も開始しています。これは、他社の共用サーバーではまだあまり提供されていない機能ですが、非常に重宝する機能です。
一方、セキュリティ機能である、WAF(Webアプリケーションファイアウォール)は、エックスサーバーでも提供を開始し、どちらのサーバーでも利用可能になりました。お試し期間は、さくらのほうが若干長いです。
なお、データセンターに関しては、さくらは北海道にも自社のデータセンターを持っていますが、これは VPS などで利用できるようになっており、共用サーバーは東京のデータセンターになるようです。
また、独自ドメイン永久無料や初期費用無料などのキャンペーンも、エックスサーバーは頻繁に実施していますが、さくらでは「○○周年記念」などのタイミング以外では、めったに実施されていません。
各サーバーのパフォーマンスを比較
では、次に各サーバーの実力を比較してみましょう。サーバーの性能はスペックだけではわかりません。そのため、実際に各サーバーを使用して検証を行った結果をもとに、実際の能力差を見てみたいと思います。
比較に使用するのは、当サイトで独自に調査したデータで、同じ価格帯のプランである、エックスサーバー「X10」・さくらのレンタルサーバ「プレミアム」を使用した結果です。調査の詳細については、以下の各記事でご確認ください。
・Webサーバーの安定性を独自調査データで比較
・サーバー別のWordPress表示速度を独自調査データで比較
サーバーの安定性を比較
まず、サーバーで最も重要な「安定性」からチェックします。
調査は Webサーバーの監視ツール「monitis」を利用したもので、約7日間×7か月間に渡ってサーバーからの応答状況(安定性)と応答速度をモニタリングした結果を比較します。
「応答速度」は、外部からサーバーに対してサイトのデータを送るよう命令を送った際(HTTPリクエスト)に、どのくらいで応答を返してきたかを計測したもので、数値が小さいほうが応答は速いため、より良いサーバーということになります。
また、「応答なし回数」は、リクエストを送ったにもかかわらず、サーバーから応答がなかった(または、かなり遅かった)、つまり Webサイトの表示ができなかった可能性があると考えられますので、応答なしの回数が少ないほうが安定性の高いサーバーといえます。
Webサーバーの応答状況(安定性)と応答速度
応答なし回数 | 平均応答速度 | 安定性総合順位 | |
---|---|---|---|
エックスサーバー 「X10」 |
0.4 | 213.3 | 2 |
さくらのレンタルサーバ 「スタンダード」 |
4.7 | 978.6 | 6 |
※無断転載禁止
他社の情報を記載していないため、数字だけでは比較しづらいと思いますが、全 8 社の成績として、順位を見るとその差が非常に大きいことがわかると思います。
ただ、さくらのレンタルサーバも応答なしの回数は非常に少なく、実はこの回数だけを見ると 4位に食い込むほどの安定さはあります。いかんせん、その分応答速度が最低レベルなので、トータルではほぼ最下位といった結果になってしまっているだけです。
これは単純に CPU やメモリなどのスペックの低さを表していると言っていいでしょう。
WordPressの表示速度を比較
次に、各サーバーに設置した WordPressサイトの表示速度を比較してみます。表示速度の計測には、同じく monitis を使用しています。
結果の数値については、小さいほうが速く表示できるということを意味しますので、数値が小さいほうがより良いサーバーということになります。(計測に使用したWebサイトのデータは共通)
WordPress の表示速度
平均表示速度 | 表示速度総合順位 | |
---|---|---|
エックスサーバー 「X10」 |
2.91 | 1 |
さくらのレンタルサーバ 「スタンダード」 |
3.97 | 8 |
※無断転載禁止
表示速度では、エックスサーバーはトップ、さくらのレンタルサーバは最下位と、さらに差がついてしまいました。
以前から実施している他の検証でも出ている結果ですが、さくらの場合は、データベースが絡む動作が他社と比較して遅い傾向があるため、やはりデータベースを利用している WordPress の検証結果にも表れている状況です。
共用サーバーはスペック競争が激しく、上位のサーバーは 1年に数回程度の大幅スペックアップを図っていることが多いのですが、さくらは数年に 1回といったペースなので、残念ながら、サーバーのマシンパワーが影響する項目には弱いですね。
まとめ
以上、エックスサーバーとさくらのレンタルサーバについて、その概要から安定性・サイトの表示速度まで比較してみました。
最初の主な仕様を比較した時点では、それほどの差は感じないかもしれませんが、実際に検証データの比較をしてみると、安定性・表示速度、ともにエックスサーバーが圧倒的に高い数値を出していることがわかります。
これはやはり SSD、CPU、メモリなどのサーバー基本スペックの違いが大きいでしょう。
また、さくらインターネットは自社のデータセンターを持つ、東証一部上場企業であり、共用サーバーだけではなく、近年は高火力コンピューティングや IoT まで幅広い分野でサービスを展開している大企業です。共用サーバーはその売り上げの中でもごくごく一部でしかないでしょうから、経営資源をより大規模サービスに注いでいるであろうことは想像できます。
その分、エックスサーバーやロリポップ!など、共用サーバーを中心のサービスとして展開している企業と比べると、PHP の新バージョンの展開や無料の独自SSL など、最新技術のリリースは遅めで、かつ最低限のみといった印象があります。そのため、共用サーバーを選ぶのであれば、さくらインターネットはやや物足りない感じがするのも事実です。
結論としては、100円台・500円台のプランはエックスサーバーにはないため、格安プランを利用するのであれば、さくらを選ぶことになります。ただ、100円台のプランに関しては、ロリポップ! や スターサーバー のほうが、安定性とパフォーマンスがずっと上ですので、そちらもあわせて検討してみるといいでしょう。
そして、1,000円台以上のプランであれば、間違いなくエックスサーバーがおすすめです。
以上から、各サーバーはこんな人におすすめと言えます。
エックスサーバーがおすすめな人
- 本格的にネットビジネスをしたい人
- 常に最新・最高スペックのサーバーを利用したい人
さくらのレンタルサーバがおすすめな人
- 格安プラン(500円以下のプラン)から試したい人
- 東証一部上場企業の安定さを求めている人